「偽物でも映画は作れる」

今週のお題「ふつうに良かった映画」

 

トラ・トラ・トラ!」(1970年日米)

戦争映画を良く観る人なら誰もが知っている可能性のある豪華な映画。

この映画は日本とアメリカを公平に表現していることでも評価されています。

この映画で私が気に入っているのは劇中を縦横無尽に飛び回る零戦の活躍です。当時は飛行できる本物の零戦は存在しなかった為、別の飛行機を改造して零戦として登場させました。

改造元はT-6テキサン練習機。戦時中にアメリカ等連合国で使われた、オーソドックスでとても「普通」な形のプロペラ飛行機。アメリカ人飛行学生の練習に使われ、簡単な攻撃任務をこなし、果ては敵国である日本軍も本機をベースにした飛行機を生産するほど、世界で大人気でした。

戦後、それらの機体は多数生き残り、その一部がトラ・トラ・トラ!」のために大改造・新規塗装され、スクリーンに登場しました。

最初、本物の零戦をどうしても登場させたいとこだわった監督がいました。それは黒澤明監督です。南方の島々に埋もれている零戦の残骸を回収して飛行可能状態に復元させるというもので、とてもじゃないが予算的にも無理のありすぎる計画でした。本物にこだわる黒澤明監督の信念だったかもしれませんが結果的に映画制作以前に様々な問題が起こり、黒澤明監督は降板

「もし黒澤がしていたらもっと出来がよかった」「零戦はもっとカッコよく飛び回っていたはず」「黒澤以外の監督はダメ」とか色々と私は聞きました。

でも私は正直、黒澤監督じゃなかったからこそ良い映画が作れたのではないかと思っています。なんでもかんでも本物じゃないと意味がないと考えるのは如何なものでしょうか。本物じゃなくとも映画は作れるはずです。

本物の零戦が飛ばなかったから「トラ・トラ・トラ!」はダメ、とある評論家は言いました。別の飛行機をそれらしく似せて飛ばす発想は、昔の日本映画で多かった、「南方の原住民役をする為に日本人が肌を茶色に塗って踊っているのと同じぐらい安っぽい事だ」と激しく罵倒していました。でもそれで映画として観れたらそれで良いはずです。

映画は総合芸術の世界であり、何でもかんでも本物じゃないからだめと否定する人は少し合わないです。

実際、「トラ・トラ・トラ!」は偽物の零戦でもとても驚異的な戦闘機として描かれていたと私は思います。危険な低空飛行も空中戦もオーソドックスで頑丈なT-6テキサン練習機を選んだからこそできたものと考えています。本物の零戦を飛ばした「パール・ハーバー」よりも好評です

偽物でも本物を上回ることができる場合があると考えさせられたこの映画は「ふつうに良かった映画」です。長文でしたが、ありがとうございました。